生活の中の真言

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ーー本気になって話をすれば必ず聞いていただけるーー

石川達三氏の小説「夜の鶴」は長年、愛育した子供(娘)を嫁がせようとするときの複雑な父親の心境を描いた心温まる小説である。まず相手の男性にその心境をうったえた後娘がどんなに育てられ育っていったかを述べているが、その中に…
離乳の頃に、幹子(母親)は歯を悪くし、何とかして早く乳をやめさせなくてはならないと言うことになった。
だが、昼間は良いが、夜、眠りにつく時は乳房をしゃぶってからでないと眠らない。
そこで父の私は、昔からやっているように、センブリを煎じて、その苦いしるを乳首につけることをすすめた。
「かわいそうだけれども仕方がない。これをつけてごらん」
母親はためらって、なかなかつけようとしないので、また促したところ、彼女は頭を振って
「…子供に嘘はつきたくないの。私話をしてみますわ」
話をしてみる?…
相手は、やっと誕生を迎えようという子供。
大人の話がわかるわけは無い。
でも子供に策略を持ちたくない、ごまかしたくない。
それが母親の願いだった。
話をしてみる?…
相手は、やっと誕生を迎えようと言う子供。
大人の話が分かるわけは無い。
でも子供に策略を持ちたくない、ごまかしたくない。
それが母親の願いだった。その一筋の願いによって、母親は子供を膝に抱いて、まるで言葉のわかる人に言うように、繰り返し繰り返し、30分も40分も話して聞かせるのだった。
その晩、子供は母に添い寝をしてもらって眠る時、なんと驚いたことには、小さな手のひらをそっと乳房にあてただけで、飲もうとはしないのであるー
「どうしたの?飲まないの?」
子供はそっと顔を向け、そのまま目をつむってしまうのだった。母親はどんなに泣かされたか。
「あなた、あなた…この子はちゃんとわかっているのよ。子供ってわかるのねぇ。親が本気になって言って聞かせれば、ちゃんとわかるのねぇ…」
限りのない味を持ったこの話。
真言とはどういうものか、私はその答えとして、この話を真言宗の人々に示したい。
そして、この子供が、その後どのように育ったか、この小説の一読をすすめることでもある。

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